土の無垢さも、使い勝手も。どちらも叶う特別な「こなれ小鉢」ができるまで 〜土編〜
2022.06.15

土の無垢さも、使い勝手も。どちらも叶う特別な「こなれ小鉢」ができるまで 〜土編〜

人気の「こなれ小鉢」から、特別なうつわ「こなれ小鉢 焼き締め 墨/白茶」が誕生。

通常の「こなれ小鉢」は、ゆらぎの出る釉薬で、ひとつひとつ違った表情になるのが魅力です。今回はあえて釉薬をかけず、土の質感をそのまま楽しんでいただけるうつわに仕上げました。土に触れているような質感をまといながら、電子レンジ、食洗機、オーブン(150℃まで)対応可等、通常の『きほんのうつわ』の機能性も兼ね備えています。

今回は、産地と窯元の魅力を最大限感じていただけるこのうつわについて、全2回の記事でお伝えしていきます。1回目は、土のお話。美濃地方の土の特徴や今回使用する原料について、『株式会社丸朝製陶所(以下:丸朝製陶所)』代表・松原さんと、そのパートナーである原料メーカー『ヤマカ陶料株式会社(以下:ヤマカ陶料)』取締役・古林さんに教えていただきました。

土そのものの質感も使い勝手も両立した「こなれ小鉢 焼き締め 墨/白茶」を支えるのは、時間をかけて蓄積されてきた美濃地方ならではの“奇跡の土“でした。

目次

長い歴史が育んだ、焼き物のための“奇跡の土“

有田などの他産地が単独の原料を使用して焼き物をつくるのに対し、美濃地方は複数の原料を使用するのが特徴。はるか昔、この地域にできた花崗岩(かこうがん)に端を発し、そこから数億年の環境変化で生まれた良質な土は「奇跡の土」とも呼ばれます。

美濃地方の焼き物の歴史は1300年。蛙目(がいろめ)粘土、木節粘土、藻珪(そうけい)、砂婆(さば)に加え、磁器土をつくるのに欠かせない珪砂(けいしゃ)が豊富に存在したことが、この地域の陶磁器づくりを長らく支えてきました。自然によって熟成された「奇跡の土」がなければ、その歴史も生まれていません。

古林さん「この地域で陶磁器が発展したのは良質な蛙目粘土や豊富な珪砂があったからですが、焼き物の一大産地に共通することは、どこも原料と技術が共に高いレベルで融合していることでしょうね」

複数の原料を使う美濃地方では、採掘した原料をどのバランスで組み合わせるかが職人の腕の見せどころ。吸水性のない磁器化したうつわをつくるための調合は、特に難易度が高いのだそうです。

古林さん「成形するために、土にも粘性が必要です。焼成時に変形してはいけません。焼き上がったものにも吸水性があってはいけません。その全てを叶える配合が難しいんです」

松原さん「その調合を安定して供給してくれるのが、『ヤマカ陶料』さんのすごいところなんですよ」

“雰囲気のある“磁器をつくるために

『丸朝製陶所』が誇る1300度の高温で焼き締める方法も、適した土でなければうまくいきません。常に高いレベルで品質管理をしている『ヤマカ陶料』は、必要不可欠なパートナーです。

松原さん釉薬の発色を良くし、表現の幅を広げるためにも土台となる土の質は重要です。今回のように焼き締めたあとに釉薬をかけない場合は、土の風合いがそのまま商品に反映されるため、土選びの条件はさらに厳しくなります

「こなれ小鉢 焼き締め 白茶」の原料である「美濃A土」は『ヤマカ陶料』から、「こなれ小鉢 焼き締め 墨」の原料である「黒土」は瀬戸のメーカーから仕入れています。

古林さん「『美濃A土』は『ヤマカ陶料』が開発した土です。磁器化された吸水性のない状態と、陶器っぽい“雰囲気のある”仕上がりを両立するバランスを見つけるのが当初の課題でした。ただ、これまでのノウハウから、その点はそこまで難航しなかったんです」

松原さん「開発においてどの部分が一番難しかったですか?」

古林さん「安定性を出すことですね。雰囲気のある仕上がりには、原土を使う、つまりある程度の不純物を残した状態にするというこれまでと逆のアプローチをします。しかし不純物が多いと色ムラや焼きムラに繋がります。成分によって何度の熱に反応するかなどが変わるからです。色の幅もどうしても出てきます。人工的な色と異なり自然の色を主体にすると、焼き上がりの色が毎回微妙に変わります。

こういった理由から、雰囲気のある土をつくろうとすると、量産用として常に一定のクオリティで出荷するのが難しくなるんですね。安定させようとしすぎると、土の味わいが無くなってしまいますし、かなり難しい土でした。他社が実現できなかった磁器化・雰囲気のある仕上がり、そして安定性の全てをクリアし量産できるようになるまで、約2年間かかりました」

自信を持って焼けるのは、信頼できるパートナーがいるから

「美濃A土」に限らず、『丸朝製陶所』で取り扱う土の多くは『ヤマカ陶料』から仕入れられています。理由は、高い品質管理力。採掘されて原料メーカーに届く土は混合体であり、常に同じ状態ではありません。違う入荷原料で、常に同じアウトプットを出すには、職人の勘ではなく、数値的な裏付けが不可欠です。

松原さん「長期間、安定した品質の粘土を提供してもらうには、原料の調達からその分析、ブレンドまでを一貫して任せられるのが望ましいです。数値的な裏付けを以って管理できる体制を構築しているメーカーとなると、この業界では『ヤマカ陶料』さんが突出しています。どこにでもできることではないんです」

古林さん「磁器化の明確な定義が無いだけに、言ったもん勝ちになっている部分もあります。ただ、わたしたちは自分たちなりの基準をきちんと作って、それを守っていく感覚を忘れてはいけないんです。食器だと特に、安全・安心は絶対。うちも万全の原料を提供するし、丸朝さんも同じです。両輪が揃ってできていることって、この地域でも意外と多くないんですよ」

松原さん「うちは1300度の焼き締めが強みなので、その条件下であれば間違いなく磁器化できるという“確証“を持つ必要があります。天然物の原料を常に正しく加工・管理し、自分たちの目指す焼き物にふさわしい原料を提供してくれるパートナーとして、信頼してお付き合いさせていただいています。『美濃A土』と焼き締めの組み合わせで作るうつわはこの商品が初となるので、わたしたちも楽しみです」

「なんでも作れるがゆえに無個性」と捉えられがちな美濃地方のうつわ。
ですが、土の多様さや長年育まれてきたブレンドと管理の技術があったからこそ、幅広いニーズに対応できる技術や体制が構築されたのかもしれません。

「こなれ小鉢 焼き締め 墨/白茶」は、そんな美濃地方の個性から着想を得て誕生。無釉薬だからこそ感じられる無垢さは、美濃地方の良質な土と、『丸朝製陶所』をはじめとする作り手たちの焼成技術・研磨技術の結晶です。次回は、土を最大限に活かした焼成と研磨の工程についてご紹介します。

取材・文:松下沙彩
写真:fujico
取材協力:ヤマカ陶料株式会社、丸朝製陶所株式会社

 

▼「こなれ小鉢 焼き締め」の制作ストーリー技編はこちら

https://kihonutsuwa.com/blogs/topics/202206_story_yakishime_2

▼「こなれ小鉢 焼き締め 墨」の商品詳細ページはこちら
https://kihonutsuwa.com/products/khn00010602

▼「こなれ小鉢 焼き締め 白茶」の商品詳細ページはこちら
https://kihonutsuwa.com/products/khn00010601