土の無垢さも、使い勝手も。どちらも叶う特別な「こなれ小鉢」ができるまで 〜技編〜
2022.06.21

土の無垢さも、使い勝手も。どちらも叶う特別な「こなれ小鉢」ができるまで 〜技編〜

人気の「こなれ小鉢」から、特別なうつわ「こなれ小鉢 焼き締め 墨/白茶」が誕生。

通常の「こなれ小鉢」は、ゆらぎの出る釉薬で、ひとつひとつ違った表情になるのが魅力です。今回はあえて釉薬をかけず、土の質感をそのまま楽しんでいただけるうつわに仕上げました。土に触れているような質感をまといながら、電子レンジ、食洗機、オーブン(150℃まで)対応可等、通常の『きほんのうつわ』の機能性も兼ね備えています。

産地と窯元の魅力を最大限感じていただけるこのうつわについて、全2回の記事でお伝えしています。2回目は、土を生かす、技のお話。焼成と研磨の技術についてお聞きしたのは、1回目に続き『株式会社丸朝製陶所(以下:丸朝製陶所)』代表・松原さんです。

『きほんのうつわ』はすべて、1300度の高温でしっかりと焼き締めています。吸水性がなくなるほど高温で、長時間焼き締め磁器化する(※)のも難易度の高い技術ですが、今回はさらに、「釉薬をかけずに長く使える品質を保つ」ための技術が加わりました。

(※)磁器化:この記事では吸水性が無い状態を指します

目次

100年使えるうつわをつくる“焼き締め”

通常うつわは成形して素焼きされたあと、釉薬をかけて本焼きを行います。『丸朝製陶所』は、本焼きの中でも特に時間とコストがかかる「1300度で24時間焼き締める」方法を採用しています。高温で長時間焼き締めることで、吸水性がなくなり丈夫なうつわに仕上がり、電子レンジ、オーブン、食洗機にも使える機能性が備わるのです。焼き締めを行っている製陶所は他にもありますが、窯の設定温度を1300度まで上げ、さらに24時間かけて焼くケースはほとんどありません。

松原さん「うちの特長は、極限まで焼き締めている点です。1300度で24時間しっかり焼成することで、土の中の不純物をできる限り燃焼させます。他の製陶所だと1270度前後の温度帯で焼かれることがほとんどで、1300度だったとしても数時間だけだったりします。温度を上げすぎると土が発酵したり割れてしまうので、1300度は限界ギリギリの絶妙なラインなんです」

『丸朝製陶所』がこの焼成条件にこだわるのは、100年後でも使える製品をつくりたいと考えているから。コストと時間をかけ、最高ランクの品質・耐久性・安全性を目指しています。

高温で長時間焼き締める方法は誰にでもできるわけではなく、まずは当然ながら適した設備が必要です。『丸朝製陶所』にはこの技術に適した美濃地方でも最大級の窯があります。合わせて、天候など外部の変動条件に左右されず常に一定のクオリティを保つため、窯のガス圧や酸素供給量を細調整する「窯を操る技術」も必要です。

松原さん「あとは良質な原料も特長ですね。うちが使用するのはどれもいい土ですが、『こなれ小鉢 焼き締め 白茶』の原料である『美濃A土』と、『こなれ小鉢 焼き締め 墨』の原料である『黒土』は特に質が高い部類に入ります。当然値段も張りますが、成形性、耐久性、磁器化の全てで高い水準をクリアしようとすると、原料で妥協はできません。我々が考える『長く使える』とは吸水性を無くし、耐久性を高めること。これを達成できる原料を仕入れないといけないわけです。焼き締めれば磁器化する質の高い土を使い、しっかり1300度で焼き締める。『こなれ小鉢 焼き締め 墨/白茶』は、原料と焼き方の両方が揃ってはじめて、実現するうつわです」

土そのものの質感を生み出す“研磨”

釉薬には、高温で溶けガラス質になってうつわをコーティングし、水や汚れから守る役割があります。そのため、耐久性を考慮するのであれば、釉薬をかけるのが一般的。対して今回のうつわは、釉薬をかけていないのに耐久性があるのが最大の特長です。

松原さん「釉薬に頼らずに耐久性を持たせるのは、他にはなかなかできないですし、そもそも発想がないと思います。ほとんどのメーカーは焼き締めはできたとしても、無釉薬にはしません。うちは焼き締めたあとに研磨をかけるのですが、この研磨ができるかどうかが他との差です」

和食器を作る工程で研磨の必要はありませんが、洋食器づくりでは本焼成のあとの仕上げ工程で研磨の技術が不可欠です。うつわの底のザラつきを無くしたり、薄いカップを伏せて焼いたときに釉薬が付かない部分は研磨で滑らかにするのです。そのため、もともと輸出用の洋食器製造で成長を遂げた『丸朝製陶所』には、卓越した研磨技術を持つパートナーがいました。焼き締めたうつわに釉薬をかけるだけでなく、研磨をすることで汚れを付きにくくし、手触りも良くする発想は、『丸朝製陶所』ならでは。一般的に無垢さが魅力の“作家もの”などは耐久性に欠けるものが多く、反対に耐久性を重視した磁器は土の風合いが消えてしまいます。その両方を実現するための秘訣が、焼成のあとの工程「研磨」だったのです。

松原さん「無釉薬のうつわの魅力は、無垢なところです。こだわって選んだ土だからこそ、直接触れて楽しんでほしい。でも食洗機や電子レンジに対応でき、長く使える耐久性も捨てられない。そのために、焼き締めたあとに研磨で仕上げる方法を思いつきました。輸出用の洋食器全盛期の時代からお付き合いのある研磨屋さんに何度もトライしてもらって、今の形にたどり着きました。最後に研磨で仕上げると手触りがぐっと良くなるし、汚れを気にせず気軽に使えるうつわになります。我々が思い描く理想のうつわを完成させるために、なくてはならないパートナーですし、今回は特に重要です」

原料、焼き方、研磨。一つでも欠ければ生まれないうつわ

『丸朝製陶所』でも、「美濃A土」を使った無釉薬の焼き締め商品を販売するのは今回が初めて。この試みにふさわしいプロダクトとしてお願いしたのは、きほんのうつわが初めて型から手がけた「こなれ小鉢」です。きほんのうつわの原点とも言える思い入れのあるプロダクトです。

松原さん「同じ『美濃A土』を使ったとしても、焼き方によって仕上がりは全く違うものになります。焼き締めが甘ければ若干吸水性が残りますし、釉薬をかけて仕上げる窯元がほとんどだと思います。風合いを出しつつ磁器化もできる『美濃A土』の特長を一番活かせるのが今回の組み合わせだと思っています。『ヤマカ陶料』さんの土と、うちの焼き締めと、仕上げの研磨。全部揃っていないと、この『こなれ小鉢』はできません」

「こなれ小鉢 焼き締め 墨/白茶」は、美濃地方が持つ可能性を最大限に活かし、高い技術力を込めた唯一無二の”焼き締め”です。このうつわを手にとったとき、長い時間をかけて蓄積されてきたこの地方の土の奇跡と、職人たちが磨いてきた技術の数々を感じていただけたらと思います。

自然の恵みと作り手の想いが紡ぐうつわが、毎日の食卓を彩ってくれることを願って。長く寄り添ってくれる、美しく頼もしい一枚になるはずです。

取材・文:松下沙彩
写真:藤谷有紀
取材協力:丸朝製陶所株式会社

 

▼「こなれ小鉢 焼き締め」の制作ストーリー土編はこちら

https://kihonutsuwa.com/blogs/topics/202206_story_yakishime_1

▼「こなれ小鉢 焼き締め 墨」の商品詳細ページはこちら
https://kihonutsuwa.com/products/khn00010602

▼「こなれ小鉢 焼き締め 白茶」の商品詳細ページはこちら
https://kihonutsuwa.com/products/khn00010601